大判例

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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)12563号 判決 1983年2月24日

参加人

菅原道生

右訴訟代理人

柳瀬康治

原告(脱退)

城東建設株式会社

右代表者

杉浦茂雄

被告

松永藤次

被告

荒井通雄

右両名訴訟代理人

平林正三

増田英男

主文

参加人に対し、被告松永藤次は金八六万二、六一九円及びこれに対する昭和五五年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被告荒井通雄は金七一万二、一四六円及びこれに対する昭和五五年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

参加人のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの、その余を参加人の負担とする。

この判決は参加人の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  参加人

参加人に対し、被告松永藤次は金二五〇万五、五六七円及びこれに対する昭和五四年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被告荒井通雄は金二〇六万八、五〇二円及びこれに対する昭和五四年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告(脱退、以下「原告」という。)は被告松永と別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件(一)土地」という。)につき、被告荒井と同目録(二)記載の土地(以下二の土地」という。)につきいずれも昭和五三年一二月九日等坪単価(3.305平方メートル)金二七万円にて売買契約を締結した。

右売買契約は、本件(一)土地の実測面積が三一四平方メートル(95.26坪)、本件(二)土地の実測面積が三〇〇平方メートル(91.06坪)それぞれあるものとし、右実測面積により代金額を定めてなされたものである。

2  ところが、昭和五五年三月に至り本件各土地に含まれるものとして売買の対象とされた別紙図面赤斜線部分は実はいわゆる青地と呼ばれる国有財産であることが明らかとなつた。

右国有地のうち本件(一)土地に含まれるものとして売買の対象とされた部分の面積は30.67平方メートル、本件(二)の土地に含まれるものとして売買の対象とされた部分の面積は25.32平方メートルである。

3  したがって、被告松永は本件(一)土地の売買代金を金二五〇万五、五六七円、被告荒井は本件(二)土地の売買代金を金二〇六万八、五〇二円減額すべきところ、原告は昭和五四年一月三一日被告ら各自に約定の代金全額を支払つているので、右減額代金の返還を請求する権利を有する。

4  原告は昭和五六年六月七日被告らに対する請求債権を参加人に譲渡し、昭和五七年六月二二日到達の書面でその旨各被告らに通知をなした。

5  よつて、参加人は、被告松永に対し金二五〇万五、五六七円及びこれに対する原告が代金の支払をなした日の翌日である昭和五四年二月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員の、被告荒井に対し金二〇六万八、五〇二円及びこれに対する右同日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

被告らは昭和三五年一〇月二八日訴外松永一郎より本件各土地を別紙図面赤斜線部分を含むものとして買受け、それ以来右赤斜線部分をそれぞれ自己の所有に属するものとして占有してきた。したがつて、仮に右赤斜線部分が元国の所有になるものであつたとしても、その後被告らのため取得時効が完成し、本件売買契約締結当時それは被告らの所有に帰していたものである。

3  同3の事実のうち、原告が被告らに対し約定の売買代金を支払つたことは認めるが、その余は争う。

4  同4の事実は争う。

三  抗弁

1  本件売買後間もなく原告は訴外アサヒ都市開発(以下「アサヒ都市開発」という。)に、アサヒ都市開発は更に訴外大京観光株式会社(以下「大京観光」という。)に、いずれも本件各土地を別紙図面赤斜線部分を含むものとして転売した。大京観光はその後昭和五五年三月末頃右赤斜線部分の土地を国より金一五四万〇、九〇〇円にて買受け、同代金額に右買受に要した諸費用を加算した金一五七万四、七六五円をアサヒ都市開発に請求した。アサヒ都市開発から右金員の支払請求を受けた原告は、同年四月七日これを直接大京観光に支払つた。

2  ところで、別紙図面赤斜線部分が国の所有であつたとすれば、アサヒ都市開発、原告、被告ら本件各土地の右土地を国から取得し、各買主に所有権を移転することは可能であつた。しかるに、大京観光は右売主らをさしおいて直接国から右土地を買受け、その結果右売主らが右土地の所有権を取得して各買主に移転することを不能ならしめた。したがつて、大京観光はアサヒ都市開発が右土地の所有権を移転し得ないことを理由にアサヒ都市開発に対し民法五六三条に基く代金減額請求をすることはできないというべきである。

また、アサヒ都市開発は本件各土地を右赤斜線部分を含むものとして大京観光に売却しており、代金減額義務も負わないのであるから、原告に対し、民法五六三条に基づく代金減額請求をすることはできず、原告も同様の理由により被告らに対し右代金減額請求をすることはできないというべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2は争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1の事実並びに原告が被告らに対し約定の売買代金を支払つたことは、当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、本件売買後昭和五五年三月に至り右各売買の対象とされた別紙図面赤斜線部分は国の所有に属するものであることが明らかとなつたこと、右赤斜線部分の土地のうち、本件(一)土地に含まれるものとして売買の対象とされた部分の面積は30.67平方メートル、本件(二)の土地に含まれるものとして売買の代償<編注・「対象」か?>とされた部分の面積は25.32平方メートルであることが認められ、<反証排斥略>、他に右認定を左右するに足る証拠はない。また弁論の全趣旨によれば、被告らは右赤斜線部分の土地を取得して原告に移転することができないことが認められる。

三そこで抗弁について判断する。

抗弁1の事実は、当事者間に争いがない。

右争いがない事実によれば、大京観光は、アサヒ都市開発、原告及び被告ら本件各地の売主をさしおいて直接国から別紙図面赤斜線部分の土地を買受け、その結果右各売主らが右土地の所有権を取得してその各買主に移転することを不能ならしめたというべきである(なお、各売主らが国より右土地の払下げを受けることは可能であつたと認められる。)。

ところで、右のように買主が自ら他人に属する権利を取得し、売主をして権利を取得して移転することを不能ならしめた場合には、買主は、民法五六三条に基づく代金減額請求をなし得ず、右権利の取得費用額の償還を請求できるにすぎないと解するのが相当である。したがつて、大京観光はアサヒ都市開発に対し代金減額請求をなし得ず、右赤斜線部分の土地の取得費用額一五七万四、七六五円の償還を請求できるにすぎないというべきである。

そうすると、アサヒ都市開発は、本件各土地を右赤斜線部分を含むものとして転売しながら、大京観光に対し代金減額義務を負わないことになる。しかして、このように売買の目的たる権利の一部が他人に属するにかかわらず、その目的たる権利をそのまま第三者に転売した買主が、第三者に対し代金減額義務も負わないという場合には、買主は結果的に右他人に属する部分の移転を受けたのと同じ効果を享受することになるのであるから、その売主に対し民法五六三条に基づく代金減額請求をなし得ず、自らが第三者に対して償還義務を負う右権利の取得費用額の償還を請求できるにすぎないと解するのが相当である。したがつて、アサヒ都市開発は原告に対し、自らが大京観光に対し償還義務を負う右赤斜線部分の土地の取得費用額金一五七万四、七六五円の償還を請求できるにすぎないというべきである。また、原告は、アサヒ都市開発について述べたのと同様の理由により、被告らに対し代金減額請求をなし得ず、自らが償還義務を負う右一五七万四、七六五円を右赤斜線部分の土地のうち被告らが売買した各土地の面積(前記認定のとおり被告松永売却30.67平方メートル、被告荒井売却分25.32平方メートルである。)の比で按分した金額のすなわち、被告松永に対しては金八六万二、六一九円、被告荒井に対しては金七一万二、一四六円の償還を請求することができるにすぎないというべきである。

結局前記争いがない抗弁1の事実関係のもとでは、被告らは原告に対し、代金減額義務を負わないが、別紙図面赤斜線部分の取得費用額合計一五七万四、七六五円(被告松永売却分は金八六万二、六一九円、被告荒井売却分は金七一万二、一四六円)を償還する義務を負つているということになる。

四<証拠>によれば、原告は、昭和五六年六月七日原告の被告らに対する請求債権を参加人に譲渡し、昭和五七年六月二二日到達の書面でその旨被告らに対し通知をしたことが認められる。

ところで、被告らの負う前記土地取得費用額の償還義務は、被告らが別紙図面赤斜線部分の土地の移転義務を免れたことによりその分利益を得ていることに基づき認められるものであるところ、原告及び原告より訴訟の目的たる権利を譲受けた参加人の本件請求は、その主張にかかる代金減額請求が認められない場合、被告らに対し右償還義務の履行を求める趣旨も含むものと解するのが相当である。

五以上によれば、参加人の本件請求は、被告松永に対し金八六万二、六一九円及びこれに対する原告の訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五五年一一月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員の、被告荒井に対し金七一万二、一四六円及び右同日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める限度で正当であるから認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。(青柳馨)

別紙「物件目録」、「図面」<省略>

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